• 2019年8月19日月曜日
アリスト戦記
アリスト戦記 https://blog.aristo-solutions.net/2019/08/blog-post_19.html

IT業界の孫氏の兵法「カラー版 イチから知りたい!孫子の兵法」読書感想文

「孫子の兵法」というのはビジネスでも使える、とは昔から聞いていたんだけど、最近その気になったので勉強してみることにした。

孫氏の兵法の解説書は沢山出版されているけど、初心者に良さそうな雰囲気がしで読んでみた本はこちら、「カラー版 イチから知りたい!孫子の兵法」。

今回はその感想文です。




優しい注釈書

原典である古代中国の漢書「孫氏」は、それ自体は簡潔に書かれていて、具体例な説明が載っていない。

例えば「巧遅は拙速に如かず(多少下手でも、戦いは素早く行いなさい)」とか記載されているけど、「例えばどういう事例なのよ?」という所は載っていなくて、読む人が個別に自分の事例に当て嵌めて考える必要がある。

上記はIT業界で言えばコスト、品質、納期の関係の考え方に繋がるものだな。

というように、孫氏は昔からそういう解説を付け加える注釈書が沢山作られていて、有名どころでは三國志で有名な曹操の作ったものがある。

この本もまたその注釈書の一種と言えると思う。
原典の孫氏をそのまま和訳しても意味分かんないから、現代人に分かり易い言葉に置き換えてくれており、非常に読み易い。

僕みたいな特に漢文に精通しているわけでも無い初心者が手に取るには丁度良いものだった。

七計

全編通してシステム開発にも通ずる非常に優れた教訓が載っている。流石は有名な書だけの事はある。これらは別に特殊なものではく、言わば世の中の基本中の基本、当然の内容ばかりだ。

しかし、世の中はその当然が為されていないことが多い。
そこをこうして権威ある書でしっかりと示してくれると、大変爽快な気分になる。IT業界の人間は全員必読である。

全編を通して優れているのだが、僕が一番「ココだ」と思う下りを挙げるとすると、「七計」について書かれた部分だ。

七計……、七つの評価ポイントで会社、あるいはチームを評価し、この合計が優れていなければ良い組織にはならない、という指標である。

七計をIT業界にあて嵌めて解説しよう。

1.統治・人心

メンバーのモチベーションの重要性。
パワハラとか健康度外視とか、滅茶苦茶な要求を課してメンバーに不平不満が募ると戦闘力が下がる。
プロジェクトを成功させるためには、プロジェクトメンバーから求心力を集めなくてはならない。

2.将

リーダー格の人間が優れていること。
このポジションにバカタレを配置してしまうとプロジェクトは打撃を受ける。

3.環境

例えば、パソコンの性能が悪過ぎて実装しようにも遅くてマトモに動かないようでは、著しく生産性が下がるでしょ?
メンバーが行動し易いように環境を整えることは非常に重要である。

4.法・規則

例えば、「設計書の記述ルール」とか、「コーディング規約」とか、そういうのはキッチリと整備されているか。
何も無しに全部メンバーのセンスに丸投げとかしたら、設計書もソースも何もかもが滅茶苦茶になってしまう。

5.人数

チーム全体としてのパワーが充足しているか?
早い話が、要員数だな。
10人必要なプロジェクトに5人しか集まっていないようではプロジェクトの進行は厳しい。

6.スキル

シンプルにメンバー1人1人のスキルが高いかどうか。
IT系の人間はここは熱心な人が多いんだけど、スキルは7つの要素の1つ分でしか無いでしかないから、ここだけ注力していてはダメだ。

7.信賞必罰

スキルの高い人にはちゃんと単価を上げて、不届き者には退場して貰うとか、ちゃんと公平な信賞必罰が為されているか。

以上、全部を総合的に高くすることが会社運営やプロジェクト運営の秘訣である、と説かれているのが七計だ。

IT業界必殺のダメ七計

上記を見ると、「ウチの現場は出来てないなw」と思う人は多いんじゃないだろうか?

七計は総合得点で考えるものだから、七計のうち、2~3項目だけ充足しているような状況ではダメで、全部をバランス良くしていかなければならない。

1.低スキル人材大量投入

「5.人数」と「6.スキル」の相反。

システム開発は少数精鋭が最も望ましいんだけど、巨大システムを納期までに作らなければならないという制約がある場合、どうしても頭数を集めなければならない。
だからと言って、誰でも良いから集めれば良いというものではなく、一定レベルのスキルを満たしていなければ意味が無い。

「100人を集める!!」という数字だけが独り歩きしちゃって無法図に100人も集めてしまうとプロジェクトは滅茶苦茶になる。

ちゃんと技術者の素養を見て、結果的には80人くらいしか集まらなかったとしても、無法図に集めた100人より総合戦闘力はずっと高い。

このように、相反しがちな項目間でバランスを取っていくことが重要、と孫氏は説いている。

2.環境が悪過ぎる

「3.環境」と「4.法・規則」の相反。

例えば、最近はプロジェクトを円滑に回すためにチャットツールを使うことが普及しつつある。
ところが、「我が社ではセキュリティの都合からチャットツールの使用は許可していない」とかあるわけよ。

それは確かに重要なことで、セキュリティリスクを踏まえると、チャットツール導入による効率改善よりセキュリティリスクの方が重要だ、という考え方は存在する。
大企業の超重要企業秘密をSlackでやり取りするとか、やっぱりマズいでしょ。

そういう風に、「3.環境」と「4.法・規則」のバランスを吟味して決定しているなら良いんだけど、実際にそういう風になっているとは限らない。
「4.法・規則」しか念頭に無くて、「3.環境」については全く無考慮というケースがある。

直属の上司にツール導入のオファーを出したら理由に却下されたが、もっと上の上司に直談判したら簡単に許可された、とか。
既存の規則を守ることしか頭に無くて、それ以外の項目に全く目が行き届かないようなマネージャーがプロジェクトの生産性を下げる。

3.教育が無い

「3.環境」と「6.スキル」の相反。

ツール導入に否定的な会社もあれば、積極的な会社もある。
しかし、新しいツールにメンバーが付いてこれているだろうか?

新しいもの好きで、次々と流行っているツール、流行っているライブラリを導入するんだけど、その一つ一つの使い方をメンバーに習得させるのが疎かで、とにかくただ「新しいものを使いたい!!」という気持ちだけがあるというタイプのリーダーがいる。

「技術への興味関心」とか、そういう綺麗事を並べるばかりで、人間が対応出来ているかまるで見えていない。

極めてけしからん。

4.罰が多過ぎる

「1.統治・人心」と「7.信賞必罰」の相反。

罰ばっかりで何も出来ない。

そりゃ組織の規律を守ることは重要だけど、余りに罰ばかり多過ぎて雰囲気悪くなってみんな背を向けるような状況では何の意味も無い。

まとめ:IT系必読

このように、七計の1~7は、それぞれがバッティングしている。
それをバランス良く全部高い水準に保つように配慮するのが大事、という話だ。

  • 技術が好きだから技術の話ばかりして規律とか言われるのを嫌がる。
  • 技術が分からんからルールを守らせることに専念して、パソコンがボロいことすら理解出来ない。

みたいに偏っちゃダメなわけよ。
バランス良く、全部を高くすることが大事。

それが七計に書かれている。

こう説明されると、「ああ、なるほど」という感じがしないだろうか?
人間の性質というのは、2000年前も現代もほぼ似たようなものだということだろう。

読書感想文のまとめとしては、IT業界の人間は全員、孫氏の兵法を読んだ方が良いな。

本を読んで、「自分はどこかに偏っていないだろうか?」という観点で自問自答し、バランス良く高いスキルを持ったエンジニアを目指す。
それが本当のエンジニアというものだろう。

大変良い本であった。


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